みなさん、こんにちは!

今日は、山形県酒田市で実施されているソーラーシェアリング(営農型太陽光)に関するニュースを取り上げます。

記事によると、同市石橋地区の水田で4年前から太陽光発電とコメ作りが同時に行われており、今年も稲刈りの季節を迎えたとのことです。

ソーラーパネルの下でも実る稲、営農と発電の共生

酒田市内の水田では、約77アールのうち14.5アール(約19%)が太陽光パネルで覆われています。

パネルの間隔を十分に確保することで、稲の生育に必要な日照を維持。過去4年間のデータでは、収量の減少はわずか1〜2割に留まっているとのことです。

今年は天候にも恵まれ、通常栽培とほぼ同等の収穫が見込まれています。
また、刈り取り作業には水田所有企業の社員やその家族も参加。

「農業と再エネが地域のつながりを生む現場」としての側面も見られました。

現場が抱える2つの課題、構造設計と電力販売

記事中で、運営企業の佐藤社長は次のように語っています。

「やはり電気の売り先が一つの課題になってくる。こういった部分が解決できるようであれば、今後の農業にも脱炭素にも有効な手段だと思いますので普及を進めていきたい。」

この発言には、ソーラーシェアリングの現場が直面している2つの本質的な課題が凝縮されています。

01

農機が動きやすい構造設計の最適化

02

発電した電気の販売先(需給マッチング)の確保

課題①:「農機協調型設計」への進化が必須

現在の営農型設備では、パネル架台の柱間隔によってはコンバインが通れず、手刈りが必要な部分が残っています。これを解消するには、農機の旋回半径・走行経路を前提とした設計思想が欠かせません。

今後はEPC事業者の視点から、次のような技術的対応が求められます。

農機協調型設計農機マージン(Machinery Margin)を考慮した支柱配置をBIMでテンプレート化
AI遮光最適化地域別の遮光率 × 収量データをAI解析し、
最適遮光率モデル(例:20〜25%)を導出
地形適応設計LIDARやGISデータを活用し、地形・日射条件・農作業動線を統合的に設計

つまり、単なる「パネルの設置」ではなく、農業生産工程と統合したエネルギー設備設計こそが今後の競争力の源泉になります。

課題②:電気の売り先を「地域内」で完結させる仕組みへ

次に課題となるのが、発電した電力の売り先の確保です。
FITの終了や市場価格の変動により、“電気をどこに売るか”が事業継続の鍵になっています。

ここで注目すべきは、「売電先を外に求めない」地域内直接供給モデルの活用です。

大きく4つの選択肢が考えられます。

方式概要特徴
A. オンサイトPPA農地と同一敷地内に
需要を設けて供給
小売登録不要・即応性高
B. 自己託送自家発電→自社別拠点へ送電管理要件厳格・制度変動に注意
C. 地域新電力連携小売登録を取得し地域供給自治体連携型の展開可能
D. 証書併用スキーム相対契約+環境価値証書を活用柔軟・非化石価値の最大化

こうした枠組みを使えば、農地発電→地域施設・企業・公共施設への地産地消供給が可能になります。

つまり、「農地から地域を支える電力インフラ」が現実の選択肢となるのです。

「アグリゲーション」と「アグリゲーター」を混同しない

ここで誤解されやすいのが、「電気をまとめて販売するならアグリゲーター登録が必要なのでは?」という点です。

実際には、これは別の概念です。

アグリゲーション複数の電源・需要をまとめて管理する行為(誰でも実施可能)
アグリゲーター需給調整市場に参加する登録事業者(VPP/DR向け)

つまり、地域新電力やEPCが自社・地域内の電源を束ねて販売するのは「アグリゲーション的機能」であり、需給調整市場のプレイヤーである「アグリゲーター」とは異なります。

ソーラーシェアリングの未来、設計力と販売力を併せ持つ事業者へ

これからのソーラーシェアリングでは、単に「農地の上にパネルを置く」だけでは差別化できません。重要なのは、農地条件に最適化された設計力と、地域内で電力を循環させる販売スキームの両立です。

  • 農業 × エネルギーをつなぐBIM設計・AI最適化
  • 地域内需給を支えるPPA・自己託送・地域新電力連携
  • EPC・小売・地域経済を結ぶ“共創型モデル”への進化

この2軸を押さえた事業者だけが、次のフェーズでリーダーシップを握ることになるでしょう。

会津電力グループとしても、こうした「地域設計力+電力循環モデル」を一体で展開していくことが重要だと感じます。

著者コメント

今後のソーラーシェアリング事業の成否を分けるのは、「農地に適した設計」と「電気の売り先の確保」の2点に尽きます。

農業現場のデータをもとにした最適施工モデルを確立し、地域新電力と連携した販売スキームを整えることが、競争優位性の源泉になるだろうと考えています。

齋藤 浩昭
AiNERGY株式会社 取締役

著者プロフィール
ソフト開発を経て独立し、ITベンチャーを創業(2004年グリーンシート公開、Deloitte Fast50国内3位)。その後、三陸牡蠣復興支援プロジェクトを立ち上げ、3億円超のクラウドファンディングを実現、国内牡蠣業界の革新にも寄与。
2019年MBA取得。2023年からAiNERGYで再エネ×IT事業を推進中。