出典:日本経済新聞

みなさん、こんにちは!

今日はクボタが大阪・関西万博で公開した「世界初の無人・水素燃料電池トラクター」のニュースをご紹介します。

脱炭素と省人化を両立する挑戦ですが、私たちが注目すべきは“未来を先取りする技術”だけではなく、“現実的に普及が進む技術”です。

クボタが公開した新トラクターの特徴

動力源水素燃料電池(排出は水のみ)
出力100馬力級の中型タイプ
特徴AIカメラで障害物や雑草も識別、自動運転や遠隔操作が可能
用途農地内だけでなく格納庫から農地までの自動移動も可能

農業の「省人化×脱炭素化」を両立させる世界初の試みであり、万博ならではの“未来感”を打ち出す技術展示といえます。

実用化への課題

  • 公道や農道での無人走行を認める規制改革
  • 農村部での水素供給インフラ整備
  • 市場投入時期は未定(まずは実証実験から)

現状では、まだ社会実装には距離がある状況です。

現実解としてのBEV農機とBESS活用

実は、すでに海外では電気駆動(BEV)の自動運転トラクターが商用化されています(例:米のMonarch Tractor)。国内でも小型モデルから普及の兆しがあります。

ここで重要なのが、出力抑制された太陽光電力をBESSに貯蔵し、農機に供給するモデルです。

これにより、

  • 夜間・早朝でも充電可能
  • BEV草刈り機やドローンも充電
  • 「現場直結型マイクログリッド」として農業の電化を推進

が可能になります。

EPCとしては「ソーラー+BESS+BEV農機充電パッケージ」を提案でき、省人化とエネルギー地産地消を同時に実現できます。

RTK基地局と農業自動化インフラ

中期的に欠かせないのがRTK基地局の整備です。

RTK基地局とは

リアルタイムキネマティック(RTK)測位システムにおいて、事前に正確な位置がわかっている固定の基準局であり、衛星測位で生じる誤差をリアルタイムに補正するための情報(補正データ)を、インターネットなどを通じて移動局(ローバー)に配信する役割を担います。
この基地局からの補正情報とローバーの観測データを組み合わせることで、通常のGPS測位では数メートルの誤差が生じるところを、数センチメートル単位の高精度な測位を実現します。

  • 通常のGPSは誤差が数m
  • RTKは基準局からの補正データで数cm精度の測位が可能
  • トラクターが直線走行や同じ畝の走行を精密に実行
  • 農薬散布ドローンや水田管理にも活用

農業の自動化を支えるインフラであり、国も補助金を通じて「地域RTK基準局」の整備を後押ししています。

ソーラーシェアリングの役割拡張と地域協業

ソーラーシェアリングが単に「電気を売る」だけでなく、農地そのもので農機・ドローン・通信基盤に使う電気を供給できる存在になります。

さらに、この役割拡張は農協や自治体との協業によって加速します。

農協との連携

  • BEV農機やドローンの充電拠点を共同整備し、組合員でシェア
  • RTK基地局の共同利用による効率的な圃場管理
  • 「再エネで育てた農産物」のブランド化や販路拡大

自治体との連携

  • 農業振興と再エネ導入を一体化したモデル事業の推進
  • RTKインフラの公共整備や、防災・観光・ふるさと納税との連携
  • 教育・観光資源としてのGXアピール

ソーラーシェアリングは、地域の農業と社会を支える「基盤エネルギー」として、新しい展開が期待されます。

農業の未来は「段階的な自動化」

万博で披露された燃料電池トラクターは未来を示すシンボル。
しかし現実解は、BEV農機×BESSから始まり、RTKインフラ整備を経て、将来の燃料電池農機につながっていきます。

農業の自動化は一足飛びではなく、段階的に進化していく。
そして、その進化の中でソーラーシェアリングの役割は「再エネ供給」から「農業オペレーションの基盤エネルギー」へとシフトしていくのです。

齋藤 浩昭
AiNERGY株式会社 取締役

著者プロフィール
ソフト開発を経て独立し、ITベンチャーを創業(2004年グリーンシート公開、Deloitte Fast50国内3位)。その後、三陸牡蠣復興支援プロジェクトを立ち上げ、3億円超のクラウドファンディングを実現、国内牡蠣業界の革新にも寄与。
2019年MBA取得。2023年からAiNERGYで再エネ×IT事業を推進中。