次世代の太陽発電技術として注目を集めている「ペロブスカイト太陽電池」
新しいエネルギー源としての可能性を秘めたこの技術は、どのような特長を持ち、どのような課題に直面しているのでしょうか。
ペロブスカイト太陽電池を扱う現場のリアルな声も交えて、その魅力と現状を詳しく解説します。
ペロブスカイト太陽電池とは?
基本的な構造
ペロブスカイト太陽電池は、灰チタン石(かいチタンせき)やペロブスキー石が持つ、「ペロブスカイト構造」を利用して作られています。
ペロブスカイト太陽電池の開発
2009年にハロゲン化鉛系ペロブスカイトを利用した太陽電池が桐蔭横浜大学の宮坂力教授や小島陽広氏らによって発明されました。現在では、宮坂力教授はノーベル賞候補とも言われています。
ペロブスカイト太陽電池は、製造方法として塗布や印刷が可能なことから、大量生産に適した特性を持っており、従来のシリコン型太陽電池とは根本的に異なる、次世代の太陽電池として大きな期待が寄せられています。
エネルギー変換効率の進歩
2009年に開発されて以降、ペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率は驚異的な速度で向上してきました。開発当初は3.9%であった変換効率は、現在では20%前後まで高まっています。
ペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率に関する研究
円筒型の ペロブスカイト太陽電池 モジュールを開発し、鉛に代わるスズ系素材のペロブスカイト太陽電池で世界最高の13.2%の変換効率を実現しました。
曲げ性を維持したフィルム型で、発電膜をより均一に作製する手法を開発し、エネルギー変換効率を従来の14.1%から15.1%に引き上げることに成功しました。
既存のシリコン型太陽電池とペロブスカイト太陽電池を積層した「タンデム型」の太陽電池で、2023年に28.6%の高い変換効率を実現しました。
20%以上の発電効率を維持しつつ、実用環境に近い60℃の高温雰囲気下で1000時間以上の連続発電が可能なペロブスカイト太陽電池を開発しました。
ペロブスカイトのメリット
軽くて柔軟性がある
厚さは シリコン太陽電池(約30~40mm)と比較して「約31μm(0.031mm)」と「約100分の1の厚さ」で、重さも シリコン太陽電池(62.5 g/W)と比較して「2.5 g/W以下」と「約25分の1の重さ」になっています。折り曲げやゆがみに強いのが特徴です。
低コストで製造できる
材料を塗布や印刷で作ることができるため、一日に製造できる量が多く、低コスト化が期待できます。すでに、インクジェットで印刷する製法も登場しており、薄く曲げられるペロブスカイト太陽電池は、ロール・ツー・ロール方式やシート・ツー・シート方式などの大量生産方式を採用して生産することが可能です。
国内で材料を確保できる
主な材料である「ヨウ素」は、日本はチリに次ぐ世界2位の生産国で、世界の29%のシェアを持っています。従来のシリコン型の太陽電池では、レアメタル等を含むため、材料を輸入しなければなりませんでした。国内で材料が調達可能になるので、国際情勢などの影響も受けにくく、安定して材料調達が可能です。
光の吸収力が強く、エネルギーの変換効率が高い
発電層内で発生した電子と正孔が電極までたどり着く距離が短いため、ロスなく発電できます。そのため、曇りの日や室内の蛍光灯やLEDなど光が弱い状況下でも発電が可能です。
ペロブスカイトのデメリット
寿命が短い
ペロブスカイト太陽電池の寿命は5~10年程度と、従来の太陽光電池の20~30年と比べて短いのが欠点です。ペロブスカイトは赤外線や紫外線によって、結晶が劣化しやすい特徴があり、屋外で使用すると劣化しやすい点が大きな課題です。また、湿気にも弱く、水分と反応すると劣化するため変換効率が下がり、寿命が短くなります。
積水化学工業は、2025年までに20年相当の耐久性を実現する方針を示しています。
面積を大きくするのが難しい
面積が小さければ充分な発電量をだすことが可能ですが、大きな面積になると発電効率が不安定になります。従来のシリコン型の太陽電池のような面積で設置できるような製品開発が課題です。
パナソニックは、ガラスを基板とする軽量化技術や、インクジェットを用いた大面積塗布法を開発し、開口面積802cm2:縦30cm×横30cm×厚さ2mmのペロブスカイト太陽電池モジュールを作成することに成功しています。
主原料の安全性に問題がある
ペロブスカイトの主原料である「ヨウ化鉛」や「ヨウ化メチル」には、有害物質が含まれており、人体や環境への悪影響が懸念されます。
ヨウ化鉛 | ヨウ化メチル |
---|---|
発がん性、生殖毒性、特定標的臓器・全身毒性がある | めまい、悪心、吐き気、視覚障害、言語障害、運動失調、精神興奮などの症状を引き起こす可能性がある |
近年では、研究者たちは鉛を含まない、より安全な材料の開発に取り組んでいます。 京都大学では鉛の代わりに「スズ」を用いたペロブスカイト太陽電池を開発しています。
ペロブスカイト太陽電池の実用化はいつ頃?
政府のペロブスカイト普及目標
政府は、2040年には国内に原発20基分に相当する20ギガワットまでペロブスカイト太陽電池を普及させると正式に発表しました。
年内にも素案を取りまとめ、新しいエネルギー基本計画2040年度の電源構成で、再生可能エネルギーを最大の電源とするシナリオを示す方向で検討しています。
ペロブスカイト太陽電池を計画の柱の一つとして位置付ける方針で、産業としての競争力を高めるため、日本メーカーの研究開発や量産体制の構築を支援していくとしています。
2024年12月現在の現場のリアル
ペロブスカイトの予算取りや開発要件に関わっている方から、現状のペロブスカイトについてのリアルな状況をお聞きしました。
ペロブスカイトは注目されていると思うんですが、今後の見通しはどうでしょうか?
予算取りや開発要件をしていて感じるのは、実証実験が全然上手くいってないというのが現状です。
実証実験、上手くいってないんですか?
上手くってないというか、想定される工数に関わる発電量がそこまでいってないんです。みなさん、PV EXPOとかでペロブスカイト太陽電池を見にこられるんですよ。でも、期待したものがまだないんですよね。
ペロブスカイトを取り扱う会社は何社かでてきてはいるんですが、太陽光の領域というより建築建材の領域になっていますね。モジュールとかが建材に近い形になってくるので。商材を取り扱う業者が変わるというイメージです。鉄工業社であったりとか。
今後はペロブスカイト太陽電池は屋根一帯式とかになっていくんですけど、電気的な要素はまだないんですよね。発電出力もそんなにないのが現状なので、「売り方に困っている」というのが本音です。
注目度はすごく高いと思うんですけどね…。
注目度はすごく高いんですけど、製品化に対して政府とか企業は「やるぞ!」とは言っているが、予算取りや開発要件をやっている現場としては「どうするのかな?」というのが現状ですね。
ペロブスカイト太陽電池の実用例を考える
窓や建材としての活用
ペロブスカイト太陽電池は、材料を変えることで色の調整が可能です。建物の窓や外壁などに設置しても、景観を損なうことがありません。また、透明化も可能になっているので窓に設置しても部屋が暗くなるということもありません。
例:高層ビルの窓に組み込むことで、自然採光を活かしながらエネルギーを自給
衣類やバッグへの応用
軽量かつ柔軟性が高いため、衣類やバッグに直接組み込むことで、持ち運び可能なデバイスの充電や小型の電子機器への電力供給ができる可能性があります。
例:ハイキング用のバックパックに組み込んで、スマートフォンやGPSデバイスを充電
ドローンや電動航空機の電源
ドローンや電動航空機に搭載することで、構造に大きな負荷をかけることもなくエネルギー供給し、飛行時間を延長できる可能性があります。
例:農業用ドローンの表面に配置し、発電しながら飛行時間を延長して効率的な農薬散布を実現
IoTデバイスへの搭載
低照度下でも発電性能が高いため、室内のIoTデバイスに適しています。これにより、電池交換の手間を省き、より持続可能な運用が可能になります。
例:スマートホームのセンサーやデバイスに搭載し、室内の人工照明でも電力を供給
災害対応や緊急用途
軽量かつ持ち運びが容易な特性を生かし、災害時の緊急電源としても利用できます。避難所や被災地での電力供給に役立ちます。
例:折りたたみ可能なペロブスカイト太陽電池シートを配布し、緊急時にLED照明や通信機器に電力を供給
ペロブスカイト太陽電池の実用化への道のり
ペロブスカイト太陽電池の実用化は、2025年頃になるのではと予測されていますが、 2024年12月現在では現場の声を聞く限り、見通しは立っていないようです。
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた取り組みは進められており、企業や研究機関が製品開発を行なっています。しかし、現在は実証段階の製品が多く、耐久性や製造コスト、安全性や面積の大きさなどの課題もあるため、実際の普及には更なる時間がかかる可能性があります。
ペロブスカイト太陽電池は、革新的な特長を持ちながらも、解決すべき課題がまだ多く残されています。しかし、その可能性は計り知れず、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた大きな一歩となるでしょう。
ペロブスカイト太陽電池の技術の進化と実用化の動向に注目していきたいですね。