みなさん、こんにちは!
今日は「再エネ×農業」の新しい取り組みとして、西武アグリが手がけるソーラーシェアリング事業のニュースを取り上げます。太陽光発電の下で育てられたシャインマスカットが、所沢駅で販売されるというユニークな試みです。

所沢の遊休地が“太陽光+農業”の新拠点に

西武アグリは、西武グループの遊休地を活用して、農業と太陽光発電を両立させる「ソーラーシェアリング」を推進しています。

  • 事業地は埼玉県所沢市の「西武アグリパーク所沢」
  • 約1.7haの敷地で、太陽光発電設備の下にブルーベリーやブドウを栽培
  • 三菱HCキャピタルとの共同事業として運営

今回初めて、ここで栽培された「シャインマスカット」と「伊豆錦」が所沢駅で販売されることになりました。

駅ナカで味わえる旬のぶどう

1房1,000円
ミックスカップ500円

販売されるのは、人気の高級ぶどう「シャインマスカット」と、ピオーネよりもさらに大粒な「伊豆錦」。

9月10日から12日まで、数量限定で販売されるため、地元の方にはちょっとしたイベントになりそうです。

ソーラーシェアリング成功の条件とは

ソーラーシェアリングとは、太陽光発電設備を設置した農地で作物を栽培する仕組みです。
農地をそのまま利用しつつ、発電による収益も得られるため、

  • 遊休地の有効活用
  • 再エネ導入の拡大
  • 農業収益の多角化

といった効果が期待できます。

西武グループが造園や緑地管理の知見を活かして農業分野に参入した点も、都市近郊型のモデルとして注目されます。

かつてソーラーシェアリングでは「榊」が導入されましたが、市場が限定的だったため持続的なモデルにはなりませんでした。これは榊が「マグネット効果の薄い商品」だったとも言えるでしょう。

つまり、ソーラーシェアリングの成功条件は、

  • 農産物の市場性(マグネット効果や安定需要)
  • 農業と発電の技術的バランス(光量・収益性の最適化)

この両輪をいかに同時に追求できるかにかかっています。

業界プレイヤーへの示唆

EPC事業者や再エネ開発者にとって、この事例は「農業+再エネ=地域ブランド化」という新しいビジネスのヒントを与えてくれます。

1
地域ブランド作物とのセット化

「地元の再エネで育った特産品」として高付加価値化。

2
都市近郊での遊休地活用

発電収益と農産物販売収益の両立モデル。

3
地域の消費者接点づくり

駅ナカ販売や観光と組み合わせて“体験型ソーラーシェアリング”へ。

単に発電するだけでなく、地域ブランド・消費者体験・カーボンニュートラルを掛け合わせた展開は、再エネ事業の新しい形といえるでしょう。

地域での展開シナリオ

今回の「駅ナカ販売」は、その先に広がるシナリオの“入口”かもしれません。

1
観光との連携

ソーラーシェアリングの農園を「見学・収穫体験ツアー」にし、地元観光資源とセット化。

2
直売所・マルシェ展開

農園で採れた果物を地元直売所や週末マルシェで販売。再エネ由来の農産物として差別化可能。

3
ふるさと納税の返礼品化

「再エネで育ったシャインマスカット」として返礼品にすれば、都市住民への訴求力も強い。

4
地域ブランド戦略

「所沢ソーラーシェアリング産ブドウ」として認知を広げれば、農産物と再エネのダブルブランド価値が生まれる。

これらを組み合わせることで、再エネ事業は単なる発電ビジネスに留まらず、地域経済・観光・農業の新しい柱に発展していく可能性があります。

再エネと農業がつくる新しい価値

今回の「シャインマスカット駅ナカ販売」は、小さな一歩かもしれません。

しかし、ソーラーシェアリングによる農産物が「地域ブランド」として根付けば、再エネの価値は「電気」だけでなく、「食」や「観光」にまで広がっていく可能性があります。

再エネ事業に関わる私たちにとっても、このような動きは地域共生型のモデルを考える上で大きなヒントになりそうです。

著者コメント

私は個人的にぶどうが好きなので、そのバイアスがかかっているかもしれませんが、ぶどうはマグネット効果(消費者を強く引きつけるものという意味の私の造語)があるものだと思っていて、特にそれを「ソーラーシェアリング」で育てたんだというストーリーで駅で売れば、きっと瞬く間に売れるだろうし、同時にPRにもなるだろうなぁという感想です。

かつて、ソーラーシェアリングでは、「榊」は日射量をあまり必要としないため、ソーラーシェアリングに「適している」と考えられていて、全国の業者がつくっていましたが、需要の特殊性が強く市場が限定的だったため持続的なモデルにはなりづらかったと思っています。それも言ってみれば榊はマグネット効果の薄い商品だったということもあるのだろうと思います。
他方では、「米」のようにマグネット効果は薄くても全国的に消費需要が安定しているため、米でのソーラーシェアリングも間違いない事業だろうと感じています。

もちろん、何でもソーラーシェアリングで育成できるかというとそうではないですし、電力収益と農産物収益の両立条件が最重要ポイントであるし、そのバランスをどのように取るかが大事だというのは言うまでもありません。最適解は 「作物ごとに必要な光量を定量化し、その余剰を発電に回す」 ことなのだろうと思います。

このように幾つかの判断基準で分けられるソーラーシェアリングですが、ソーラーシェアリング成功の条件は、「農産物の市場性(マグネット効果の商品含む)」と「農業・発電の技術的バランス」の両輪を同時に追いかけることにあるのではないでしょうか。

したがって、電力収益と農産物収益の両立を追求しながら、農産物収益については、全国の地域にあるマグネット効果の高い果物と、基幹作物である米を二本柱に据えて展開できれば、地域での再エネへの理解促進と農産物の販売促進の両立に繋がりますし、またそうでなければ、ソーラーシェアリングは持続可能な事業にはならないのだろうと考えています。

齋藤 浩昭
AiNERGY株式会社 取締役

著者プロフィール
ソフト開発を経て独立し、ITベンチャーを創業(2004年グリーンシート公開、Deloitte Fast50国内3位)。その後、三陸牡蠣復興支援プロジェクトを立ち上げ、3億円超のクラウドファンディングを実現、国内牡蠣業界の革新にも寄与。
2019年MBA取得。2023年からAiNERGYで再エネ×IT事業を推進中。